今日は、カトレア天神ビルの2室の退去後を視察に伺いました。7年前に改装をした201号室と、4年前の2013年に改装をした302号室。時間の経過し退去した後の賃貸の一室に向かう心境というのは、通常の住宅建築の「そののち」とは少しこちらの心境が異なります。賃貸はその時は住人のもののようでいて、でもいずれはお返しするもの、そして次の住人に明け渡すものですから、前住人がどのような住まい方をしたか、必ず他者の目が入ります。本人とは一度も会わなくても、そのガランドウを通して、なんとなく意思疎通が出来てしまいます。
さて302号室、こちらは4年間住まわれ続けた後の最初の入れ替わり。驚くほどに綺麗なままでした。管理会社の方、オーナーと一緒に私もすこぶる驚きました。この人は特別に、美しく住まわれた人に違いない。女性?いや男性とのことで二重の驚き。そして、次はこれほどに完璧ではなかろうとおそるおそる、201号室へ。こちらは、最初に4年、その後3年住まわれた履歴で、今回で3ラウンド目。いや、こちらも負けじオトラジの美しい住まわれ方。直前の住人はまたもや男性とのこと。
これまで、関わった原状回復の現場では、もちろんゴミ屋敷レベルの住人が1度だけありましたがそれを除くと、それ以外は、本当に美しく住んで頂いている方々ばかりでした。今回も、その法則を裏付ける、いや、さらに確信する二室でした。ここまでくると、漆喰の壁や無垢の床材に対して、細心の注意を払われながら、大事に次へと繋げていこうという積極的な心さえ感じます。そういう気持ちが、明確に、このガランドウから伝わってきます。
私たちは作り手として、お金や手間とか時間をニラミながら、完璧にならないけれども完璧を目指して、自らの心の隙や甘えと戦いながら、モノを通して、住み手にその心の度合いを伝えようとしています。それに対して、今度は住み手が作り手の心に応えるように、モノを通して、返礼して頂いているような気がしました。大げさな感じに聞こえるかもしれませんが、それほどに、美しく退去されていました。
(ちなみに、これら二室は共に敷金なしの礼金2ヶ月という設定のものであったそうです。つまり敷金の返金率を上げるための動機付けは働かない条件でした。)