実は、昨年(2021)の4月に、出来立てホヤホヤの新築バージョン「漆喰と木の室」stairHouseに、取材依頼がありました。その段階で、既にstairHouseは満室状態であったため、泣く泣くお断りする経緯でした。今回晴れて、人事異動の季節を迎えて、唯一一室にわずかな空室期間が生まれたため、その合間に撮影してもらうことができました。
ゆっくり不動産、ご存知の方にはいうまでもありませんが、2020年9月に立ち上げて以来、飛ぶ鳥を落とす勢いであっという間に不動産情報サイトのトップシェアの存在になってしまいました。その再生回数は目を見張るものがあります。しかしその数の驚きをぐっとこらえつつも、紹介の内容への驚きが隠せません。
建築設計者の思惑というのには、大きく二つありまして、一つは、多くの人にとって理解されやすいもの、自明なもの。例えば、自然光がたくさん入って明るい、とか天井が高いとかです。ステアハウスの場合は、外断熱であるとか、窓ガラスが断熱性の高いLow-Eであるとか、吸放湿性能と温かみのある漆喰壁でできている、などです。一方で、設計者としてはこれがいい、と思ってやっていても、これは気づいてもらえるかな?という範疇のものがあります。ステアハウスでいうと、漆喰と木という代表的なペアリングにコンクリートと鉄が混在する、いわば、素材の組み合わせ、織り交ざる風景です。こうなると、性能の話ではなく、美学の話なので、設計者が確信を持ってやっていても、(よほどナルシストでないかぎり)自明のこととして不特定多数に対しては公言しにくいわけです。
で今回の驚きは、ゆっくり不動産に、ゆっくり歩いてもらって動画として紹介してもらった、ということに止まらず、普通の不動産情報の縛りを超えて、この素材の組み合わせの美にまで深掘りされているところでした。この類は、建物の説明としてクラウド上のどこにも書いていないはずなので、ひとえに取材者の感性が拾い上げたもの、ということになります。
おそらく、漆喰と木の室を気に入っていただく方の多かれ少なかれは、この織り込まれた素材構成の美は言葉にならなくても肌身で感じていただいているのではないか、と勝手ながらいつも思っています。漆喰が、とか木が、とかその単体が好きで、というよりも、むしろ、そこにピカッっと光ったステンレスの硬いシンクとか、障子の光とかを含んだ室全体、つまり、デザイン全体を、人間の感覚として、全体を瞬時に捉えている。素人だから、解らないだろう、といったうがった見方を捨てて、絶対わかってくれているはず、という姿勢でデザインしようと心がけることになります。そういった個人の感覚(にすぎない)と捉えられがちな部分が、その物件を成り立たせている魅力として、堂々と紹介される、というのが、このゆっくり不動産のもう一つのすごみなのかもしれません。その他のことも随分と勉強して、作成していただいたようでもありますが、あえてこの部分のみ、取り上げさせていただきました。
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