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トイレと漆喰

2023. 7. 23

クロスを剥がしている最中のトイレ

1.トイレに漆喰を塗っていいもの?

「建築の設計はトイレに始まりトイレに終わる」といったような都合のよい格言は残念ながら聞いたことがないが、それでも、トイレが気の抜けた建築というのはどこかその本音をかいま見てしまったような気がして興ざめするものである。ある職人から、床の間や玄関前の壁などは弟子にやらせて、トイレや廊下の壁こそ親方が腕をふるう所だったというようなことを聞いたことがある。実はトイレや廊下の方が床の間などより、使う側の目にとまりやすいものであり、また日本人はそういう裏方にこそ美意識を注いでいたという話だ。なるほど、その習慣には自分自身に聞いても心当たりがある。

2001年にサンプルハウスと称し、置き捨てられた実家の2Fを我が「左官の家」の実験場にしようと発起し最初に手がけた部分は、やはりトイレであった。実験場でもあったが自らのために新調される生活の場でもあったから、トイレが不快では困ると体が素直にそう感じたのだ。剥がされていく既存のビニールクロスから10数年分の蓄積されたトイレ臭が鼻をつんざいたことや、漆喰に塗り替えてからにおいが激減したことを忘れることはない。サンプルハウス=設計者の自宅における、必要に迫られて思いつきでできた漆喰のトイレが、その後様々なところで萌芽し、すべてを拾い上げると30例を超えていることになる。なんだ、君はトイレ作家か?といわれるとモトモコモないが、美しいトイレを歓迎せぬ人はいないということで、前人未踏のこの異名に甘んじてもいいと開き直る。

kazemai-toilet 2 (2004) <2005TOTOリモデルコンテスト自由部門最優秀賞>

2.匂いがなくなる?

最初にサンプルハウスで作ったトイレには、当時流行り始めていた竹炭の粉を漆喰に混ぜ合わせて塗った。押さえることにより思いがけずグレーのまだらを表現することができたが、目的はあくまでも炭のアンモニア分解能力を期待するものであった。科学的にも漆喰はアンモニア等を分解することがわかっている。しかしそれ以上に歴然と臭いが少なくなったと感じることができたのだ。この漆喰トイレ1号は、外壁面に接していなくて、つまり、開口部がなくて、換気扇のみで臭気を抜くしかなかったが、それまでは、換気扇を止めると、事の前でであってもトイレ臭が湧き上がってきていた。ところが、漆喰を塗ってからは、住み着いたような匂いがなくなり、事の後でない限り、臭わなくなった。

その後、住宅や店舗などの仕事=不特定多数の人々が使用するトイレにも、かまわず漆喰を塗った。トイレは水はねがあることを考えると、そこに漆喰を塗ることを躊躇するものではあったが、自宅を実験場=サンプルハウスにおいて、トイレの心地良さを我がモノにしているだけではもったいないと思った。その後、田川産業が開発途中の漆喰タイルライミックス試作機(2001年ごろ)にお目見えすると、この素材を床に貼れば完全漆喰空間ができると考え、すぐさま漆喰トイレNO4,5を作った。この段階では汚れを考慮して黄色の色粉をまだら模様に配したライミックスとした。その直後サンプルハウスのトイレ床も白色無地のライミックスを貼った。その後も、店舗や事務所にと、野別幕なしの具合に、漆喰のトイレを繰り返した。

sikkuytoilet_horadoko2015 床は、田川産業のライミックス(白)を敷いた。芳香剤いらずの真っ白の空間。

3.漆喰トイレのデメリット

メリットばかりいうと、デメリットを述べないと信憑性が薄らぐということで。

コスト:確かに漆喰塗りの単価は、クロスや塗装に比べて、3〜4倍するが、ただトイレについては、面積が小さく、そのわりには、じっくりとその質感を味わえるところなので、費用の割り増し額は、大したことにならないはずである。クロス貼りが2万円で済んだなら、10万円近くなりそうだということになる。住宅の中では、最も少額で済む、と考えることもできる。もちろん、漆喰を室内に塗ろうとするときは、トイレだけを依頼するというのはないだろう。ようは、最後の予算調整でトイレはクロス貼り、にするのは、ちょっと勿体無い話、ということです。

ひび割れ:ひび割れを気にされる方が、多いですが、自分が、これまで、トイレに限らず、室内の漆喰ぬりで、ひび割れを起こしたというのは、基本的にありません。もしあったとしたら、地震などによる構造クラックです。クラックの種類は、二種類あって、材料の効果性質による「乾燥クラック」と、塗り材料の下地となっている壁とそれ以深の構造が動いたことによる「構造クラック」です。ここを分別して考えると、「乾燥クラック」については材料由来のものだから、よほど変な材料を用いない限り、漆喰は、収縮率の低い左官材料なので、起こりません。起こるとすれば、構造クラックの方でしょうか。これは、やはり、建物全体の構造形式や、壁下地の作り方など、左官工事以前の問題になります。でも漆喰は、これまた柔らかい材料なので、少々の動きなら割れにくい左官材料でもあります。モルタルなどは、硬い材料なので、下地が動くと、反応良くピキッと割れます。モルタルの割れた風景がみなさんにこびりついていて、それと漆喰が同じと思われている節があります。なので、ヒビが入らないから、左官職人が良かったのでしょう、ということもよく耳にしますが、それは充分条件ではありません。どうやったら、ヒビが入らないか、は条件がいくつか必要になります。ここでは、多少ヒビが入ったら入ったで、塗ってもらった人に対処してもらう、というぐらいの気軽さで、取り組まれてはどうでしょうか、というご提案です。

sikkuy-toilet 2022「頂上の家」 一面の壁に黒漆喰磨きを施した。床は、杉板の、なんと無塗装。これで2年ぐらい事務所として用いているが、これらの素材でできているから掃除がなにか特別に大変、ということは一切ない。

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