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漆喰の吸放湿(調湿)性能について

2023. 9. 30

さまざまに語られる性能の部分かと思います。正直、これらの真偽については、見定めきれていないところです。

まずは、最近よく言われるようになったのは、JISが定める調湿材料の基準を満たしていないから(40g<70g/平米/24h)、漆喰は「調湿建材」とは言えないという記事。これまで吸放湿するとうたわれてきた漆喰からすると、急転直下のレッテルです。ただ、この試験の漆喰の厚みは1.2mm厚らしく、メーカー珪藻土の工法基準に合わせられているのではないか、というところがちょっと疑問です。漆喰の塗り厚は、実際の現場では通常は3ミリ以上になるのではないでしょうか。少なくとも、対珪藻土、という土俵の上では、漆喰は「材料単体としては」劣る、ということになるでしょうか。

一方で、漆喰に改修して結露がなくなったとか、なんとなく快適、といった体感レベルのものがネット上でも記述されています。私自身も、その体感らしきは、20年来、自宅に施し、人様の家家に施し、施主さんからの生の声を聞いてきたこともあり、こういった体感的な意見は無碍にはできないと思っています。単位材料の性能の比較で優劣を測るのが数字で表されて説得力を持ちますが、そこには、材料単価も関わってきます。高い材料を薄塗りで、一部の壁で終わらせることになれば、本末転倒かと思います。塗り厚、そして一室での塗り面積もまた、室としての吸放湿性能に大きく影響していることを視界にいれておくべきと思います。

また、そういった見えない現象を正確に捉えようとすると、きちんと踏み込んだ理解が必要になってきます。吸放湿性能、と十把一絡げに捉えていますが、湿度(しつど)変化の周期と、絶対湿度(しつど)=水蒸気量も関わってきます。一言で言えば、珪藻土を含めて、漆喰などの薄塗りの類の左官仕上げは、季節の変化に伴う湿度の変化(長い周期の湿度変化)や、梅雨時期の高湿度の外部環境(高い水蒸気量=高湿度)には対応できない、ということです。例えば、冬の寒い日に窓を閉め切って今日は鍋、というような一時的な水蒸気の発生に対するものならば、アルミサッシが結露しない、などの状態は、珪藻土でも漆喰でも塗られた面積に比例して効果が見込めると思います。一方で、梅雨時期に溜め込んだ湿度を冬に放出したり、冬の間に壁を乾っからにしておいて、それが梅雨時期に乾燥剤のように吸湿する、などということは、とうてい起こり得ません。この効果に近づこうとするならば、壁はもう、昔ながらの土100%の荒壁である必要があります。(左官の話ではあるが、別な話になってくる)あるいは、床は本わら床の畳であるとか、無塗装の杉材であるとか、家具も同様に、とか、家全体を自然素材で設計し、機密性、透湿性、を考慮するなど、総合的、複合的な取り組みが必要になってくるでしょう。
梅雨のとても湿度の高い日に、エアコンも用いずに、室内が快適な湿度を保つのは、厚みのない漆喰や珪藻土だけでは無理なのです。

木材の事例ですが、その厚みと湿度変化の周期に関して、1日の湿度変化に対しては表面から1mmが働き、1ヶ月の周期変化に対応するためには16.4mm必要だ、といった研究結果があります。(岡野健1987)塗り壁はまた、異なる厚みでしょうが、より大きな周期の湿度変化には、それに応じた厚みが必要だという原理は変わらないのではないか、と考えています。

今日の住宅の壁は、いつの間にかビニールの仕上げとなってしまいましたが、マンションにこもりがちな湿気を調整するには呼吸する塗り壁材がいいと言われています。漆喰の原料は石灰(炭酸カルシウム)と糊やスサですが、強アルカリであることから強い殺菌効果があるなどとも言われます。コロナの時期には、漆喰がコロナウィルスを減滅させるかといった研究もされたりしました。(答えはNOでした。)正直それらの効果を数字で追っていくと、騙された、ということにもなりかねません。

なによりも、住まわれた皆さんからは「空気が澄んでいるような気がする」の感想を少なからず頂きます。厚みを持ったふんわりとした漆喰の質感を感じて頂ければ、調湿効果という屁理屈のようなものは蛇足かもしれない、とまで思います。私どもは、漆喰はなんの効果がありますか?と聞かれると、「なんとなく気持ちがいい、ぐらいのことです」とお答えするようにしています。

 

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